Hole In The Wall

カリフォルニア州サンノゼ在のソフトウェアエンジニア。

グリルドチーズ・スタートアップの栄枯盛衰。

いや、「栄・盛」には至ってないか。

随分前に流行りかけた、"Flip"というビデオカメラ。鳴り物入りでシスコに買収されたけどまあ結果は承知のとおり黒歴史。そのスタートアップを立ち上げたJonathan Kaplanというアントレプレナーが引き続いてグリルドチーズのスタートアップレストランを立ち上げた話。"The Melt"というチェーンなんだけれど、

当時だいぶ話題になったんで日記ネタにてたかと思ってサーチしたけどしてなかった様子。まあ何れにせよ鳴り物入りで登場したこの"The Melt"、グリルドチーズのディスラプティブ革新、ハード・ソフト両面でテクノロジを駆使して最高のグリルドチーズがわずか45秒で簡単に焼けるマシンを開発。メニューは数種類のグリルドチーズとスープのみ、携帯のappを駆使して注文、など破壊的テクノロジで参入。5年で500店舗展開する!と豪語。結果は散々。5年経って実店舗は18。潰れてないだけましかも。ただこの起業家自体は去年9月にCEOの座を追われているけど。

さてなんでこんなになったか。実際にThe Meltで働いていた職員、上から下まで色々インタビューした結果、やっぱりアントレプレナーの読みが甘かった、というのが理由。

Entrepreneurs frequently embark on these missions with vast sums of money and a deep belief in technology’s power to solve all problems — which is not always a formula for success in the brick-and-mortar business

テクノロジで何でも解決できる、と信じ込んでしまうのが失敗の要因の一つ。

“I didn’t know anything about the video camera ten years ago,” he boasted in a 2011 interview with Forbes, “and I don’t know that much about grilled cheese sandwiches or soup.” 

 これはこの起業家がインタビューで答えた引用だけど、”「ビデオカメラ」と言うものを知らなかったからFlipを作れた。グリルドチーズについてもあんまり知らない(ので革新的なことが可能)”と言っている。これは諸刃の刃。

Some said the 45-second sandwich lacked a soul. “It’s a grilled cheese, all right, but a sterile one,” wrote SF Weekly restaurant critic Jonathan Kauffman. “[T]here are no compressed spatula marks in the bread, no globs of cheese that have escaped the bread to crisp on the griddle.”

ビデオカメラと食べ物は違うもんである。45秒でササッと出てきたら素っ気なさすぎ、ということ。

the sandwich had “that nostalgic thing,” Kaplan explained. Grilled cheese sandwiches were the fast food equivalent of Proust’s madeleines, priming them for disruption. 

これはこのアイディアを初めて披露した時の、この起業家本人の弁。 ノスタルジックな「プルースト効果」を狙っておきながら、ササッと45秒で特徴のないグリルドチーズが出てきたらやっぱり味気ない。

Yet the the Melt’s purist menu had a flaw: Diners don’t usually eat sandwiches for dinner.  

 まあこれはレストラン業界にいないことに起因する最も初歩的なミスだけど、グリルドチーズ、夕飯に食べよう、という客はやっぱり少ないんで昼は混むけれど夜は閑古鳥。後でグリルドチーズ以外のメニューも追加したようだけど、そうするとグリルドチーズに特化した自慢のマシンがフル稼働しないというオペレーションの非効率化などなど。

“But what we did learn is that the quality of the food is the most important reason why someone comes to a restaurant.” 

 最後に起業家の弁。テクノロジ導入で効率化計るのは良いけれど、やっぱりとどのつまりはどれだけ質の高い食べ物を提供できるか、という当たり前の結論に。まあ「レストラン」なんだから当然なんだけど、そこを忘れてしまうのがアントレプレナー

と、グリルドチーズ大好きながら"The Melt"に言ったことがないのに戯言。まあうちで焼いたパンに自分で選んだチーズで作るグリルドチーズが一番旨い、という持論には変わりないけど。